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今回は【慢性閉塞性肺疾患(COPD)】について。
Contents
COPD:慢性閉塞性肺疾患とは
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、主に喫煙により有害物質を長期に吸入することで肺の炎症が生じ、気流閉塞をきたす疾患である。
気道閉塞は呼吸機能検査では、1秒率の低下として検出される。
慢性気管支炎と肺気腫の混在により気道閉塞をきたした症例に対する病名として生まれた概念である。
COPDの病態
気管支~肺胞領域における気道炎症とそれに伴うさまざまな病理学的変化が、COPD患者でみられる気流閉塞とガス交換障害の原因となっている。
(1)中枢気道(内径 2mm以上)
・中枢気道での粘液産生が増えることで、喀痰量が増加する。COPD患者の喀痰量には個人差が大きいが、喀痰量の多い患者では肺機能の低下速度が速く、生命予後が悪い傾向がある。
(2)末梢気道(内径 2mm以下)
・慢性炎症、粘液貯留、くり返す損傷・修復による気管支壁の線維化、平滑筋の肥厚などにより末梢気道の管腔が狭くなり、気道閉塞の一因となる。それに加えて、気管支壁に付着している肺胞壁が破壊されるために、細気管支壁はより虚脱しやすくなっている。
(3)肺胞領域
・肺胞壁の破壊がおこり気腔が拡大する(肺気腫)。
・肺胞壁内の弾性線維が破壊されるため、肺が縮もうとする力(弾性収縮力)が減少し、肺胞からの呼気駆出量が低下して気流閉塞を悪化させる。
・さらに、肺胞領域での換気血流比不均衡と肺胞の総表面積減少による拡大能低下のため、ガス交換も障害される。
(4)血管
・肺胞壁の破壊に伴って肺の毛細血管網も障害され、肺血管容量が減少する。
・低酸素血症による肺血管収縮反応に加え、肺血管自体に内膜・平滑筋の肥厚や炎症がおこる。
・これらの病態が重なり、肺高血圧症、肺性心(右室肥大)、右心不全へと進行する。
(5)全身併存症と肺合併症
COPDでは、しばしば全身性炎症、栄養障害、骨格筋機能障害、心・血管疾患、骨粗鬆症、抑うつなどの全身併存症や、肺がん、気胸などの肺合併症を伴う。
臨床症状・身体所見
長期間の喫煙歴があり、慢性の咳嗽、喀痰、体動時の呼吸困難があれば、COPDを疑う。
身体症状
・持続的・進行性の体動時の呼吸困難(息切れ)
徐々に進行するため、患者自身が気付いておらず、感冒などを契機にはじめて自覚することがある。
呼吸困難を評価する指標としてMRCスケールが使用されている。
・体重減少
・食欲不振
身体所見
・樽状胸郭(肺の過膨張による胸郭前後径の増大)
・口すぼめ呼吸(気道内圧を高めて虚脱を防ごうとする)
・呼気の延長
・呼吸補助筋(胸鎖乳突筋など)の肥大
・呼吸音減弱
・連続性・断続性ラ音聴取
・頸静脈の怒張、下腿の浮腫(肺高血圧症に伴う肺性心から右心不全に陥ることで出現)
評価指標:MRCスケール
Grade 0 | 強い労作で息切れを感じる |
Grade 1 | 平地を急ぎ足で移動する、または緩やかな坂を歩いて登るときに息切れを感じる |
Grade 2 | 平地歩行でも同年齢の人より歩くのが遅い、または自分のペースで平地歩行していても息継ぎのため休む |
Grade 3 | 約100ヤード(91.4m)歩行したあと息継ぎのため休む、または数分間平地歩行したときに息継ぎのため休む |
Grade 4 | 息切れがひどくて外出ができない、または衣類の着脱でも息切れがする |
検査
【画像検査】胸部単純X線
・肺の過膨張に伴う、肺野透過性の亢進
・横隔膜位置の低下、ドームの消失(平低化)
・滴状心
【画像検査】胸部CT
・肺気腫が低吸収領域(LAA)として早期から明瞭に描出される
呼吸機能検査
スパイロメーター
1秒率
吸入気管支拡張薬(β2刺激薬、あるいは抗コリン薬)投与後の1秒率(1秒量/努力肺活量×100)が70%未満の場合を、不可逆性の閉塞性換気障害ありと判断する。
フローボリューム曲線
呼気後半部分の気流速度低下が顕著となるため、下に凸の曲線となる。
・COPDの病期分類も主に閉塞性換気障害の程度に基づいて行う。気管支拡張薬吸入後の1秒率測定値が性別、年齢、身長から算出される予測値の何%にあたるかを求め、この値が低下するほど高度の気流閉塞があると判定する。
・疾患の重症度は、気流閉塞の程度に加えて、呼吸困難などの症状、運動耐容能、依存症・合併症なども含めて総合的に評価する。
・1秒量が予測値の60~70%まで低下すると、労作時の息切れを自覚するようになる。
・1秒量が50%未満に減少すると、正常な日常生活を送ることが困難となる。
治療/管理
(1)禁煙
禁煙は、COPD発症のリスクを低下させるだけでなく、すでに発症した患者の呼吸機能低下速度や死亡率を減少させる、最も効果的かつ経済的な方法である。
(2)ワクチン
・インフルエンザワクチン... COPDの重篤な増悪、死亡率を減少させるので、接種をすすめる。
・肺炎球菌ワクチン...65歳以上あるいは1秒量が予測値の40%未満のCOPD患者には、5年に一度の肺炎球菌ワクチンの接種も考慮する。
(3)薬物療法
<気管支拡張薬 >・・・COPD患者の症状を軽減し、運動耐容能を改善して生活の質を高める。
【気管支拡張薬の種類】
①抗コリン薬 / 短時間作用型吸入β2刺激薬
・軽症
・体動時など必要なときのみ用いる
②長時間作用型 / 長時間作用性β2刺激薬
・中等症以上
・気管支拡張効果が強く、長期間投与しても有効性が低下しにくい
・まず単剤で使用し、必要に応じて併用する
③吸入ステロイド
・重症例
・増悪を繰り返す患者に考慮する
・長時間作用性β2刺激薬との配合剤はより効果が高い
(4)包括的呼吸リハビリテーション
・患者の日常生活を心身ともに良好な状態に保つように、多種専門職種が協力して、患者教育、栄養指導、 呼吸理学療法、運動療法を含めた包括的な呼吸リハビリテーションを行う。
・運動療法が呼吸リハビリテーションの中核となる。 薬物療法に上乗せして、運動耐容能、QOLの改善が期待できる。
(5)在宅酸素療法
低酸素血症は、肺血管を収縮させ肺動脈圧を上昇させるため、肺性心、右心不全の原因となる。
長期在宅酸素療法を行うことで、生命予後を改善する。
(6)肺容量縮小術
最大限の内科的治療を行っても呼吸困難が持続する重症の肺気腫患者のうち、気腫病変が上葉優位に偏在する場合には、外科的に気腫肺部分を中心に切除する肺容量減量術が行われることがある。
→術後3年程度は肺機能改善効果がみられる。
(7)急性増悪
COPDでは呼吸器感染、大気汚染物質の吸入などにより呼吸器症状が急に悪化することがある(急性増悪)
【薬物治療】
・気管支拡張薬: とくに短時間作用性β2刺激薬の吸入が効果的
・短時間のステロイド全身投与: 気道閉塞が高度な症例での増悪の場合
・抗生物質: 膿性の喀痰
・利尿薬: 右心不全を伴っている場合
【酸素投与】
呼吸不全: PaO2 60mmHg以上を目標にする
CO2ナルコーシス予防のため、低流量(鼻腔カニューレ 0.5~1.0L/分)から始める。
予後
予後に関する因子として、年齢、性別、喫煙の継続、呼吸困難の程度、1秒量、運動耐容能、体重減少などがある。
COPD患者の看護
(1)気道の清浄化
・効果的な咳嗽方法の指導
・体位ドレナージ
・気管支拡張薬の吸入、与薬
・口腔ケア
・増悪因子の除去(環境整備)
(2)呼吸
・安楽に呼吸できる体位/上肢で体幹を維持するような前傾姿勢
・口すぼめ呼吸
・腹式呼吸(横隔膜呼吸)
(3)ガス交換
肺胞でのガス交換効率を改善する。
・動脈血ガス分析値、SaO2、酸塩基平衡、電解質、心電図のモニタリング
・酸素療法
・気管・気管支の清浄化
(4)感染予防
感染は、急性増悪の原因として最も多い。
・気道分泌物の除去
・気管・気管支の清浄化
・酸素療法
・抗菌薬
・口腔ケア
(5)不安
急性増悪時には、呼吸困難のために強い不安を抱いていることが多い。
・安楽な体位。呼吸方法の指導。
・患者・家族の不安を軽減するため、思いの表出を促し、傾聴や必要な情報提供をする。
(6)睡眠
急性増悪時は、呼吸困難や不安、仰臥することによる呼吸困難の悪化、エネルギー消耗による披露の増強
などにより十分な睡眠・休息を得ることができない。
・安楽な体位、患者が安心できる睡眠環境を整える
・就寝前に喀痰の排出、咳嗽を予防するための処置を行う
(7)排泄
呼吸困難による運動量の低下や食事摂取量の減少、心不全のための水分制限により、便秘になりやすい。
・便秘を予防するためにバランスのよい食事や水分摂取を促す
・怒責による呼吸困難を避けるため、必要に応じて緩下剤の使用を検討する
参考書籍・学生時代にお世話になった参考書/専門書たち
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